「都政新報」2005年7月15日付(2面)より
練馬区の区立保育園
民営化めぐり区と保護者が対立
練馬区が9月に実施を予定している区立保育園の民営化をめぐり、区と園児の保護者との対立が深まっている。委託事業者の選定委員会で、保護者が推薦した委員3人が「該当事業者なし」との判断をしたことから、同区では事業者が絞り込めない状況が続く。こうしたなか、区が独自の判断で委託先を決定する方針を固めたため、民営化に不安を抱く保護者らは反発を強め、事態はさらに混乱を極めている状態だ。
委託事業者は区が選定へ
各区で手法を模索
○「該当事業者なし」
現在、民営化の対象となっているのは、練馬区立光が丘第八保育園。区は昨年8月、05年4月から業務委託による同園の民営化の方針を打ち出した。しかし、保護者の反対などで実施が延び、今年4月になってから事業者の公募に着手。5事業者から応募があったため(このうち1事業者は辞退)、保護者背ウ船の有識者3人を含む、5人の委員からなる選定委員会を設け、プレゼンテーションやヒヤリング審査を行った。
審査の結果、先月26日に行われた第8回選定委員会で、保護者推薦の委員3人は「あらかじめ設けられた審査基準に基づき審査したが、該当事業者なし」との結論を主張。これに対し、区職員の委員ら2人は「他区ですでに実績があり、外部の評価も高い事業者ある」として、意見が分かれた。
選定委員会は、委員の委嘱期間が終了する6月30日までに、総括表をまとめる方向で調整を続けたが、表現をめぐってすり合わせが難航し、いまだ答申には至っていない。
こうしたなか、区は今月11日の区議会文教児童青少年委員会で、「保護者との協議にもとづき、選定委員5人中、保護者推薦の有識者3人を認めた。保護者との信頼関係によって、異例の措置をとった。しかし、事業者への評価が分かれ、結果として選定に至らなかったことは誠に遺憾」と説明し、「保育行政に責任を負う以上、事業者の選定については区の責任で判断する」と、今後の方針を示した。
○泥沼化
区の方針を受けて、光が丘第八保育園の父母会は「住民である保護者との合意を無視している」と反発し、11日夜に記者会見を開催。保護者推薦の委員3人が出席した。
会見で3委員は、「現在の保育の質を下げないという観点で設けられた最低基準を、すべての応募事業者が抵触していた」「複数の事業者から9月の事業開始は、良質の職員の確保など十分な準備が困難、との意見があった」などとし、「該当事業者なし」との結論に達した理由を説明した。
また、委員のひとりは「区としては痛い結果だろうが、これを生かして第八保育園の高い質を維持できる委託のあり方を探るべきだ。今後、相次ぐ民営化により良質な事業者が不足することも考えられる。事業者が一定水準に達していない場合、委託の延期を英断することも行政の役割ではないか」と、区に促した。
だが、区側は「保護者推薦の委員には、事業者を選ぶという前提で参加してもらった。結果として選定できなかったプロセスを検証しつつ、区長が所信表明で約束した9月の実施に向けて、区の責任で4事業者から委託先を決める」(高橋○健康福祉事業本部長)と、早期の委託実施に向けた決意は固い。
さらに、区側に通告なく3人の委員が会見を行ったことに対しても、「報告書が出されていない段階で、非公開である選定委員会の選定過程を一方的に公表するもので、区と保護者との間に相互不信を生み出すきっかけを作った」(高橋部長)と非難し、事態は泥沼化する一方だ。
○暗中模索
練馬区のこうした事態は他区にとっても他人事ではない。現在、23区で公立保育園の民営化を具体的に進めているのは18区(表)。
民営化の手法は、事業委託や指定管理者制度の活用、公立認可園を私立認可園に移行する「民立民営方式」などさまざま。ただし、初めて公立保育園の民営化に取り組む区では、「行政側も暗中模索の状態。民営化を不安に思う保護者と密に連携をとりあいながら、信頼関係をつくって民営化を進めたい」(下町区の担当者)との思いは同じだ。
各区は、事業者の選定基準や募集要項を保護者とともに作成したり、選定委員会に区民の代表が参加するなど、保護者の理解と透明性の確保策に工夫を凝らす。それでも、担当者からは「保護者の方々も、民営化そのものに反対の人から、運営主体が社会福祉法人なら良いという人、行政の手続に疑問を持つ人など色々な人がいる。何がきっかけで民営化がつまづくか、正直なところわからない」と困惑した声もあがる。
行財政改革や保育サービスの拡充を目的に、各区が進めている公立保育園の民営化。その手法をめぐっては、模索が続いている。