これまで紹介してきた5冊の絵の傾向とは全然違うのですが、私、リアルな絵というか、描きこんだ精緻な絵の絵本が好きなんです、実は。
日本の絵本画家の中では、動物の精緻な絵なら薮内正幸さん。乗り物の精緻な絵なら山本<消防自動車ジプタ>忠敬さん。このお二人の絵が好き、というかお二人の描く絵のファンですね。
で、今回ご紹介いたしますのは、は薮内正幸さんの「どうぶつの親子」です。
「どうぶつの親子」は、全ページ、まったくセリフの無い絵本。それなのに、親はこの絵本を読んで聞かせなければならないのです!
でも、「どうしよう・・・」などと戸惑う心配は一切、あーりません。だいじょーぶです、あなたも。
この本の絵は、動物達の毛の1本1本まで描き込まれていて、表紙の猫たちの絵もよく見ると、母猫のヒゲもまつ毛(?)も、丁寧に丁寧に描かれています。
それから、けっして動物の姿形だけがリアルなのではないのです。例えば、母猫の尻尾を見つめる2匹の子猫の視線からは、子猫の好奇心が溢れ出すかのように感じられます。
そういったところが、薮内節というか、動物への暖かい思いが感じられる所以です。
この絵本の特徴だと思うのは、ただ1枚の絵を除いて、背景が真っ白(ホワイト)だということ。しかし、そのまったく違和感を感じさせないし、読み手のイメージの中で、動物達の周りの環境が目に浮かんでくるようです。まるで、子どもと一緒に動物園に来ているかのようなイメージ。
背景が書いてあるたった1枚の絵は、きりんさんの親子の絵です。
それまでは横の見開きだった構成が、突然、縦の見開きになり、きりんの親子の足元には、遠く地平線の彼方まで続くサバンナが描かれています。
なんで、きりんの絵だけに背景が描かれているのか?その理由はトンとわかりませんが、私は、いつも、きりんの絵を仕掛け絵本のようにして動かしすようにしています。子どもは、本当のキリンが顔を近づけて自分を舐めようとしているかように、歓声をあげます。
子どもは各ページそれぞれの動物の子どもを指さして、自分の存在と重ね合わせます。
我がままそうに寝そべるライオンの子どもを指差したり、立ち上がった小熊を指差したり、お母さんのおっぱいに吸い付いて離れない小猿を指差したり。「これは自分だ!」と感じる動物を指差し、自分の名前を言いながら振り返って親の顔を見上げます。
終盤に出てくるライオンの親子。父さんのひげは、思わずさわりたくなるほど、ふさふさ。
象の親子の鼻を使っての「握手」もいい。うちの子達も、この2つの絵が一番好きなようですね。私は、三毛猫に頬を寄せられている黒い子猫の目の表情が、特に好きです。
動物の皮膚のしわ一本、毛の一本さえも、描くことをおろそかにしていない。
ぜひ、子どもがゼロ歳のときから読んであげてください。まだしゃべれない子どもだからこそ、「読んで」あげたい絵本だと思います。
でも、だんだん文字が読めるくらいに大きくなった子どもも、親のひざの上に座らせて一緒に楽しんで下さい。読む文字が無いからこそ、絵本を開くたびに、親子で一緒になって物語を作り出せる本だと思うのです。
子と親と絵本という「3者」の関わりの原点を示してくれる、そんな絵本なのです。